幸せのおすそわけ −Prologue−
勤務先である篠原重工八王子工場からマンションへの帰り道、木枯らしが吹く夕暮れの中、野明はマウンテンバイクをマンションへと走らせていた。
木枯らしに枯れ葉が舞い上がり、野明は不意にマウンテンバイクを止めた。
冷たい木枯らしに首をすくめ、野明は厚い雲に覆われ、星1つ見えない夜空を見上げた。
つい2ヶ月前までは、遊馬が愛車のVWで野明をマンションまで送ってくれていた。
しかし遊馬は、野明の隣に今いない。
「遊馬、元気かなぁ……」
野明がぼそりと呟く。
……あの事件から、既に7ヶ月が経過していた。
あの事件とは、東京、いや日本中にパニックを引き起こした、あの柘植の事件の事である。
あの事件を解決に導いた特車二課旧第二小隊のメンバーの功績は、マスコミなどには取り上げられる事はなかった。
メンバーの今後の事などを考え、後藤が手を回した様だった。
事件の後、警視総監とその一派の失脚などの事もあり、旧特車二課のメンバーは1ヶ月の自宅謹慎という異例とも言える処罰のみで、現在の職場への復帰を果たしていた。
ただ、1ヶ月前の遊馬の異動を除いては……。